ねえ、元気にしてる?
ふと思いついて書き出した手紙。それは誰かに届くことはきっとないだろう。わかってはいる。わかってさいるけれど何となく書き始めてしまった。そうなればなんだかもうなるようになれと思うのが昔からの僕の癖である。仕方がない。ここは流れに身を任せようか。そうやって1人、諦めの溜息を零す。
僕はなんだかんだ元気です。あんなことがあったのになんでかって?それは僕もよくわかっていません。だけど、いいことには変わりはないよね。
きっと君は今無理をしているんだろうなと思うのは、僕が心配性なだけなのかな。それでも断言できる。君は今、無理をしているよね。
なのに僕がそばにいられないのは本当に心苦しいけれど。でもごめんね。今はそっちに行けないんだ。
だからもう少しだけ、頑張って欲しい。ごめん。
ポタリ。静かに落ちた雫は僅かに紙面を濡らす。止まらないその雨によりどんどん濡れていく便箋を捨てようかとも迷ったけれど、何となくやめた。そのまま迷わず書き続ける。
君はいつも無理をする。僕が見ていないとすぐに「俺が頑張ればいいだけだ」なんて言うよね。だから僕は君が倒れたら意味ないんだよ、って言うんだ。いつもそう。でも僕はそのやり取りが案外好きだったよ。
君には可愛い弟だっている。僕にもいるけど、君のはまだまだ幼くて危なっかしいじゃないか。いや、僕の弟もさ、そりゃ危なっかしいし君と同じぐらい僕の言うことを聞いてくれないけど。
でも君がいなくなって困る人だって沢山いるんだ。
だからもう、無理だけはしないでくれよ。
…そして君は。
「…僕がいなくなって、困ってくれてるのかな」
言葉が口から流れるように出る。文字にするはずの言葉は音となってその場に広がって。誰にも伝わらない感情を、僕は1人、吐き出すように泣いた。
「僕はあの頃から、君が羨ましかった。僕の隣にいて輝いてる君を見ているのが好きだった。僕に負けないようにと頑張る君を見て僕も頑張ったさ。…ねえ僕は、君の相棒に相応しい人間かい?」
僕はいつも不安になる。きっとそんな僕の感情に付け込まれたんだろう。だからこんなことになる。…僕1人で片付けられたら良かったのに。結局は君を傷つけることになってしまって。
僕がちゃんとできていたなら。
僕がもっと、君を守れる人間だったなら…。
「……」
僕はまた、ペンを走らせる。
それに何か意味があるのかは、僕でさえも知らない。
けれど、ペンは止まることは無かった。なんでと言ったところで、それはそういう流れだから。僕はそうやって流してしまおうと思った。
だってその方が、楽だからね。
ねえヤアス。僕と君がまた出会えた時は、思いっきり喧嘩をしようか。
僕は全力で君にぶつかるからさ。君もちゃんと返してくれよ。
それで僕は、君の隣にいれると胸を誇れるはずだから。
約束だよ。
「君はきっと、約束してくれるよね」
じゅうと紙が光に融けていく。粉々になった汚い感情を静かにさらっていく風を横で見ながら、僕は目を閉じる。今日は一体どんな夢を見れるだろうか。幸せな夢だといいなあ。例えば、君とまた笑顔で並べる夢、とかね。