※撤退済み企画での内容ですが、ログとして残しています
megacoさん宅 ヴェルツォリさんお借りしています
やって、しまったか。
ポロポロと涙の雨を降らす目の前の愛しい人に、僕は今、すぐに手を伸ばすことができない。
その涙を拭って、大丈夫ですよ、なんて優しい言葉をかけてやれる余裕が、無い。
もし、その手を振り払われてしまったら。
そう考えたら僕は何も出来ずにそれを見ることしか出来なかった。好きな人に嫌われることは、こんなにも痛くて、辛くて、悲しい。
「ごめ、ごめんフォルティス」
ズキリと、胸の奥が痛む。
貴方に謝らせたかったわけじゃない。ただ、僕の言葉にうんと、頷いて欲しかっただけなのに。
泣くのだったら、僕のこの愛の言葉で、喜びの涙を流して欲しかったのに。
これはきっと、それとは違う。
どんどん血の気が引いていく。こんなにも、拒絶されるのは辛いことなのだろうか。
流石に言いすぎた、なんて言葉はもう届かないことも理解しているし、冗談で済む話では無いことも、また同じ。
どうしたらいい。そうやって聞いても答えてくれる優しい兄や師匠はここにはいない。いた所で、聞けるわけがないのだ。
だってこの感情は、この身が焼け焦げるほどの熱い感情は、僕だけのものなのだから。
誰にも渡してやらない。先程語った彼女への想いは、全て本物だ。だからこそ、引けなかったし言いすぎてしまったのだ。
「ヴェルツォリさん、僕は…」
苦し紛れの言葉。この後どう続けようか……と迷っていたその一瞬。手が伸ばされる。僕の首に、細い腕が周り抱き寄せられる。一瞬の出来事に理解が追いついていない。けれど、確かにこの温もりだけは知っているもので。途端に安心する気持ちと、何を言われるのかとハラハラする心臓が鳴り響いて止まらない。けどそれはもうどちらの鼓動の音なのかもわからなくなっていて、嗚呼、なんだか懐かしいな。なんて思いながら、僕はまだその背中に腕を回していいかわからずにいた。
「欲しい」
「フォルティスの全てが欲しい」
「これから先、数千年の人生もずっとアタシを想っていて欲しい」
「……!」
これから先、僕はそう、何千年と生きていくことになるだろう。今の年齢の何倍にもなる長い長い時を。
沢山のやるべきことがある。子供達の未来を見届けなければならない。区の皆の平和を守られなければならない。アンドラと共に歩き、そして見送らねばならない。僕はまだまだ、立ち止まれない。
でも、そんなにもやるべきことがある長い年月の中でも、こんなにも感情が満たされることなんて、あるのだろうか。先程引いていった血液は全身を巡り、僕の頬を赤く染める。目の奥が熱くなっていく。ああ、もう泣きそうだ。それを誤魔化すこのように細い身体をぎゅうと抱きしめる。もう離したくない。ようやく、ようやく僕の所に来てくれたんだから。
「…はは、もう。ずっと、その言葉を待っていましたよ」
彼女の優しさに付け入り溺れ、そしてこれから先もその温もりを求め続けたいとここまで追い詰めてしまったのは僕であって。
でも確かに、僕も彼女の優しさに救われて、傷つけられて、沢山の感情を彼女に貰った。それは確かに僕だけのものであって。
ポロ、と瞳からこぼれ落ちるその感情達は留まることを知らない。拭うのも忘れて、僕は愛しい人の顔を見たいと頬を触る。ようやく触れられたそれはいつも通り綺麗な鱗があり、更には綺麗な綺麗な感情達で濡れていた。これも全部、僕だけのものであって欲しいと指で優しく拭う。
「当たり前じゃないですか。貴方以外の人を愛する事など、これから先何千年あったとしても有り得ません」
僕を見てください、と言うとその優しげな瞳は僕だけを映す。それだけでもこんなに満たされていく。なんとも単純でわかりやすい自分に少しだけ笑えた。でも事実なのだから隠す必要もないか、とふふと笑うと、不思議そうにする貴方が、本当に愛しい。
「前にも言ったじゃないですか。”永遠に貴方を想うことを許して貰えますか?”って」
「覚えてないなんて言わせないですから」
優しく抱擁を解き、僕に手を伸ばしてくれたその愛しい手を優しく取る。振り払われなかったことに少し安心しつつ、彼女の前に跪くと、その手の甲に口付けを1つ落とす。
「僕の全てを貴方に捧げます。だから、貴方の全ても僕にいただけませんか。ヴェルツォリさん」
指輪は生憎、まだ用意できてないんですが。それを言うと少し恥ずかしいから、今度また2人で見に行きましょうね。そう心の中で呟きながら、彼女の言葉を待つ。もう怖いものは、何も無い。だって貴方が隣にいてくれるのだから。