橙色の空はまるで太陽に焼かれてしまったかのような鮮やかさで、それを粛々と夜の闇が静かに静かに冷ましていく。
大体の人はいつも見ているはずなのに、いつの間にかその橙は姿を隠す。少しでも何かに気を取られていると、あっという間に外は真っ暗。さっきまで顔を出していた太陽は、眠りについて月ばかりが目に映る。
これだけでも何となく、夕方とは儚いものだな、と大体の人は認識をするだろう。
そしてその中でも、夕闇という言葉がこの世にはあるらしい。
夕闇というものは、夕方の中でも、太陽が沈み月が出るまでの間の暗闇のことだと言う。
「クムー、帰るぞー」
「…ええ」
今はまさに夕闇、などと言う空ではないだろうか。高層ビルの隙間に見える薄暗い色をした橙色は、あの日見た色よりもかなりくすんで、何だか吸い込まれてしまいそう。クムはそう思いながら、仲間の声とは反対の方の空にそっと手を伸ばした。
「…?何してんだ?」
「あの空に、手が届いたら面白いでしょうね」
「????」
そうしたら、貴女にまた会えるのかしら。
クムは1人の女性を思い浮かべる。きっと彼女も、そうやって手を伸ばしていたらいいなと思いながら。
伸ばした手は空に届くはずはない。自慢の異能力を使ってさえしても、きっと届かない。そう、空はそうでなくてはいけないのだ。
「…届いてしまえば、欲深くなってしまう」
「クムちゃーん、帰っておいでー」
そう話しかけてくるヴィルクの髪は、鮮やかな橙色。空の闇の色に少し溶けて、くすんでは見えるけれど。
それでもやっぱり、少し眩しい。そして彼らしい。クムはそんな彼の眩しさに、いつだって救われている。
ふふ、と笑うクムにヴィルクは不思議そうに首を傾げる。そんな相棒を見てまた笑うクムを見て、更に首を傾げたヴィルクの首はこのままだと地面についてしまうのではないか、なんて考えたクムだったが、流石にそこまではやめた。でもなんか面白かったので、今度の昼食でソリトに教えてあげようと思いながら、帰りましょうと口を開ける。
「ヴィルクはいつだって面白いわね」
「褒められてる?」
「褒めてるわ」
「ならいっかー」
夕闇が2人を呼ぶ声は、きっと気のせいだ。