昔々、とある人に問いかけられた言葉。
その言葉へ言葉を返すことはきっと今でさえも出来ないだろう。そんなことをぼんやりと思う。
いつしか見なくなっていた鏡をふと見ると、忌々しい頬の痣が目に入って思わず鏡を殴ってしまう。ピシャリ。音と同時に自らの手を静かに流れていく血を、煌は見ないふりをしていた。
将来とは何だ?俺は今、お前が生きていた時から何年経っているんだ?
歳を数えるのをいつしかやめた。のではなく、元々の自分の歳なんてわかってはいなかった。知らない人間の血やゴミの山にいた時から、歳はいくつかなんて、聞かれたことも己に聞いたこともなかった。だって、誰も教えてくれなかったから。誰も聞いてくれなかったから。
「…はあ」
昔のことを考えるのは気が滅入る。だから極力考えないようにしようとはしているものの、1人の時は直ぐにぐるぐるとどうしようもないことが頭を巡ってしょうがない。特に、あの言葉。あの声が、未だに耳にこびりついている。
…人間は声から忘れられるということも言われてはいるが、煌自身、己が人間かそうでないかわかってもいないのに、それが通用するかなんて思ってもいなかった。事実、あの声は、忘れられていない。
『煌はどんな人と出会うのかな?』
知らねえよ。
『どんな風にお話するのかな』
さあな。
『私の事、覚えていてくれるかな』
………。
『ねえ、煌。貴方は悪くないの。だから、貴方らしく生きて』
「……俺らしくって、何だよ」
今の俺は、俺らしくいられているかさえ分からない。
なのに、お前はまだそんなことを、言ってくるのか。
…いや、あいつの言葉が更新されることはない。そんなことはありえない。…だって灯は、死んだのだから。俺が殺したのだから。
だから、あいつは変わらない。投げかけてくる言葉でさえ、声音さえも変わることは無い。
だからきっと、変わったのは俺の方なんだろう。
俺は傷をつけることばかり得意だ。周りに害しかない。きっとそういう風になるように産まれてきてしまったんだろう。
俺は俺の力でしか何かをすることが出来ない。そう錦に言ったら、「じゃあやることは1つだね」と言われた。
「この世界の根元を変えに行こう」
「俺らを産み落としてしまった馬鹿な神様をぶん殴れるとしたら、きっとお前もヒーローになれるさ」
選択が早かったかなんてのは煌にはきっとわからない。でもそれでいいのだ。煌達にとってそれは、最善で最高なタイミングでだったはずなのだから。