※撤退済み企画での内容ですが、ログとして残しています
餅搗さん宅 鬼灯 朱門くんお借りしています
神隠しとか、なんというか。超常現象?と呼ばれるようなものは、正直全然信じてなくて。
だってよくわからない。目の前の大切な人が、目を離したらいつの間にかいなくなるかもよ、と急に言われたって俺の頭はあんまりよく回らない。まあ、元々沢山回る方ではないことは、俺自身もわかってはいるけれど。
だから渡り人の存在を初めて聞いた時、正直、全然信じられなかった。そして何となく、その時は可哀想とも思った。
なんでだろ、と少し振り返ってみるけれど、多分、渡り人の存在をこの孤児院に来て初めて知ったからかもしれない。
つまり、捨てられてすぐ。俺は1人になってすぐ。
…1人はとても怖いことだと、知ってしまっていたから。
今となっちゃ可哀想なんて思っちゃいない。……いや、少しは思うかもしれない。けれどその時は、あの日両親に置いていかれ、孤児院の前で泣いていた時の自分に重なるような、そうでないような。なんとも言えない悲しい気持ちがぐるぐると胸の中を回っていたような。知らない場所に1人は、寂しいでしょうとどこかで誰かが囁いて俺を支配していたような気がする。
両親に孤児院の目の前で待っててねとその時1番の優しい声で言われた時の寂しさと言ったら。嘘だろうと幼いながらわかっていても、うんと頷くことしか出来ない自分は暗い夜の海の世界の中1人泣いていた。そんな時、家族になろうと優しく抱きしめてくれた青い竜の体温と、赤いエルフが撫でてくれた手の温かさは今だって忘れられない。俺はその本当の優しさを知ってしまったから、そして1人の寂しさも、知っているから。だから、渡り人の存在を聞いてその時の俺はぽつりと、可哀想だなんて感情を落としたのだ。
でも、今は?
でも今は。
「俺はお前の傍にずっといるよ。嫌と言われるその日まで」
「だって、俺がお前の傍にいたいから!」
渡り人であるお前の手は、傷だらけで、少しだけ硬くて、けど俺よりもあったかくて。 なんだか熱いかも、と最初は繋ぐのを躊躇したその手を、俺はもう離したくない。 …なんて言ったら、お前はなんて言うのかな、朱門。