※撤退済み企画での内容ですが、ログとして残しています
くらいくらいやみのなか。
おれはひとり、ただただあるく。
ざわざわ、ひそひそ。
汚らわしい、どこから来たの?どうせすぐしぬ、見て見ないふりしとけばいい。
いつだって世界はそうである。 どこから来たかも分からないたった1人の子供。
歩くだけでやっとな状態のボロボロの子供を、大人はは見て見ぬふりしてただ罵る。
まるで己が正しいかのように。
「グァアァッ!!!」
瞬間、視界が更に暗くなる。右目が焼き爛れるかのように、痛い、熱い、苦しい。
魔物に目を噛まれたんだわ、もうすぐ死ぬわね。
そんな言葉をこの子供はまだ知らなかった。
汚い、みすぼらしい。その言葉はおそらく自分のことだろう。悲しくも頭が良かった子供はすぐに自分が汚い、みすぼらしいであることを理解していた。
だが、こんな言葉は知らない。
まもの?かまれた?もうすぐ、しぬ? しぬ、しぬとは、確か。
どんどん流れていく血が己の生命を証明する。どくん、どくんと波打つ鼓動が、まだ、生きたいと、死ぬのは嫌だと叫んでいる。
「あ、ああ、あ」
嫌だ!嫌だ!嫌だ!!!
俺は、まだ、生きていたい!!! 生きて、あいつと共に、やるべき事をして、そして、そして…。
___「坊や。大丈夫かい」
「ッ!!!!」
飛び起きる。全身から吹き出る汗とそれによりびっしょりと濡れた寝間着。ひやりと通り過ぎていく隙間風はそんな俺の身体をただただ、冷やしていく。
…またこの夢か。 幾度見たことだろうか。数えるのは忘れた。その度にこうやって飛び起きて、心の臓がずっとドクドク波打ち生きていることを証明する。
「…」
右目の奥がじわじわと痛む。この夢を見たあとは大抵そうなる。瘴気で亡きものとなったこの目は今は何も映しはしない。けれど、たまにこうやって、己がいたことを主張する。
お前は、生かされたのだと。
偶然にも運が良く、あの人に助けられただけだと。それ以外は何も無い。お前は愛を知らない。与えられていない。捨てられたのだ。お前を愛するものなんて、この世には。
「……くそ」
頭が痛い。すぐに寝られる気配もなく、眠りにつくのを身体が拒んでいるのを感じる。珍しく早く寝たつもりなのに、仕方がない。水でも飲んで夜風に当たろうと布団を退かし、いつもよりも一層暗く感じる部屋を逃げるように出た。真っ先に目に入った孤児院の廊下の魔法石は、昼よりも控えめにその光をずっと主張し続けている。それがなんだか、いつもよりもずっと目に刺さっていた。